国際関係学のバックグラウンドを持ち、国際機関での勤務を経て、2020年にSantenに入社。セル&ジーンセラピー部門に加わり、パブリックアフェアーズおよびコミュニケーション業務に携わる。2024年Santen EMEAに異動し、EMEA地域でのパブリックアフェアーズ機能を立ち上げ、リードしている。
政治家などの政策立案者の元には、がんなど生死にかかわる疾患への医療支援の要望が多く寄せられています。そのため、彼らに眼科医療の重要性を訴えることは容易ではありません。目の健康は今すぐ生命を脅かすものでないとはいえ、放置すれば患者さんのQuality of Life (生活の質:QOL)に深刻な影響を及ぼすことがあります。近年、近視は増加傾向にあり、中でも成長期は近視が速く進行する可能性が高いといわれています。近視が進行すると、将来、緑内障や網膜剥離など視力にかかわる病気のリスク因子になるという報告もあります(※1)。
Santenは患者さんの治療効果や生活の質を向上させる取り組みの中で、一般の方々やさまざまな関係者に向けた疾患啓発活動に力を入れてきました。Santen欧州・中東・アフリカ地域(EMEA)事業部は、2024年1月からパブリックアフェアーズ(※2)機能を新設して、この活動をさらに前進させています。専門学会、患者会、NGOなど広い範囲のステークホルダーと連携して、目の健康に関する認知を向上し、近視に関する議論の活性化に取り組んでいます。EMEA地域の政策立案者や医療システムと連携し、進行する小児近視の影響拡大に対して適切な対応策がとられるよう支援しているのです。
今回のOur Storiesは、パブリックアフェアーズ担当シニアマネージャーのナディヤ・デファーヌと、市場アクセス・価格設定・広報部門バイスプレジデントのエティエンヌ・ルジリエに、パブリックアフェアーズの重要性と、子どもたちの視力を保護する取り組みへの想いについて語ってもらいました。
近視の多くは幼少期に発症し、大人と比べて速く進行する傾向があり(※3)、未矯正のままの近視は子どもの日常活動や学習、心理的な健康などに影響を及ぼす可能性があります(※4,5)。また、近視は、将来、緑内障や網膜剥離など視力にかかわる病気になるリスク因子としても報告されています(※1)。近視人口については、2050年までに世界人口の約50%が近視になり、欧州内で大学進学しなかった人では2035年までにこの約50%に達するとの予測があります(※6)。がんなどの疾患による深刻な影響は広く知られていますが、目の健康は生活の質に深刻な影響を与える可能性があるにもかかわらず、見過ごされがちです。
デファーヌは「視覚に関しては、さまざまなことが当然だと受け止められています。特に近視では、眼鏡があれば問題はもう解決だと思われています。私たちの役割は、このような認識が変わるよう手助けをすることと、スマートフォンやコンピューターの操作など『近くを見る作業時間』が長くなる、外で活動する時間が短くなるといった最近の生活様式の変化が、目の健康問題の増加につながるという報告があると示すことでした」と説明します。
ルジリエも「成長期に近視と診断される若い患者さんでは、病状の進行が速く(※3)、視力に合わせて眼鏡を替えるペースが速くなるケースもあります。これは患者さんや家族にとって費用面でも負担となりますが、近視が病気と認識されていないと、近視治療も保険適応外となる可能性が高く、結果的に患者さんの自己負担が大きくなってしまいます」と付け加えます。
ナディヤ・デファーヌ(左)とエティエンヌ・ルジリエ(右)
パブリックアフェアーズとは、一言で言えば患者さんが必要な医療へアクセスできるように、社会や政策の仕組みをより良く整えていくことです。
製薬企業が実施するパブリックアフェアーズの主な機能には次のようなものがあります。社内チームが社外の政策について理解し対応できるよう支援すること、医療制度の課題解決に向けて政策立案者や決定権を持つ人々と連携すること、共同で政策提言活動ができるような共通点を見つけること、患者さんやステークホルダーの声を可視化すること、そして企業の信頼を高めることです。
パブリックアフェアーズ部門を設置して活動するのは、Santenの欧州事業では初めての取り組みです。これまでは、患者さん、医療従事者、保険会社に対して新薬の価値を示す「アクセスエビデンス」、患者さん、保険会社、社会に対して薬剤の費用対効果を評価する「医療経済学」に力を入れてきました。欧州事業部門は、政策や医療制度上の障壁を乗り越え、患者さんの治療アクセスを改善し、Santenの治療薬が域内の保険対象となる道筋を整え、実質的な成果を上げてきました。
パブリックアフェアーズ部門の近視担当者は、政策立案者や医療システムが子どもの目の健康に関心を持つような政策メッセージを打ち出したいと考えました。同時に成功には、より多くのステークホルダーを巻き込んで、意義のある変化の機運を生むため、視野を広げなければならないことも認識していました。そのため、最初のステップとして、この取り組みに賛同してくれる団体を集めてグループを作ることから始めました。
デファーヌは当時を振り返り「仲間になるパートナーの範囲を広げるため、子どもの目の健康と、そこに影響を与えている近くを見る作業時間の増加と、外で活動する時間の減少という2つの主要因に着目しました。この分野の専門学会、患者団体、NGO、テクノロジー企業などを調査し、彼らに協力を要請しました」と語ります。こうしたパートナー団体には、国際失明予防協会、欧州保護者協会、世界スカウト機構があります。
「近視の患者さんの治療はどのように進んでいるか、何が不足しているのか、目指すべき方向性はどこかといった点を深く理解するため、あらゆる活動の中心に患者さんを置きました。患者さんとの対話を重ね、あらゆる場面で患者団体に参加してもらいました。」
Santen EMEAはパートナー団体と会合を開催し、課題を共に洗い出して解決策を模索しました。 政策メッセージを作るための議論を重ね、2025年4月28日、Santenと13の団体は共同政策声明「デジタル化と運動不足の時代にどう向き合うか:子どもの目の健康危機と進行する近視への対策」を発表しました。この声明は、社会が変化する中、目の健康が取り残されている現状を説明し、特に子どもや若年層における目の健康問題の深刻さを指摘するとともに、実践可能な解決策も提示しています。
解決策の一例として、学校での定期検診プログラムの実施を推奨しています。SantenがEUの主要地域で実施した、近視の子どもを持つ親を対象にした調査では、ほとんどの子どもは症状が現れてから初めて近視と診断されていることが判明しました。つまり、教師や親が、子どもが教室や家で遠くの文字を読むことに苦労していると気づいてからということです。デファーヌも「学校での検診は、近視を早期に発見し、対策を講じることができる簡単で安価な方法です」と話しています。
共同政策声明「デジタル化と運動不足の時代にどう向き合うか:子どもの目の健康危機と進行する近視への対策」
共同声明を発表した後、Santen EMEAとパートナー団体からなるグループは、欧州議会の議員、欧州委員会の関係者、その他医療政策づくりに関係ある人や組織への働きかけを行いました。
「政策声明を発表してから、数多くの人々と一対一の会談を実施してきました。通常、こうした対談には、グループから3~4名のメンバーが参加するようにしています。まず、それぞれ自分たちの考えを伝え、次に現在どのような政策が作られようとしているのかを理解して、そこに眼科医療が確実に組み込まれるよう働きかけています」
2025年後半にブリュッセルで開催された「Outdoor Classroom Day」という政策イベントでは、政策立案者を含めた参加者に向けて、近くを見る作業時間の増加と近視の関連性を示し、欧州における子どもの目の健康問題にどう取り組むか次のステップについて話し合われました。「すでに、関連する分野の政策立案者が、この問題に大きな関心を示しています。EUの多様なステークホルダーと一対一で対話できるのは、まさにパブリックアフェアーズ活動には影響力があり、この問題に関心が高まっていることを表しています」
屋外活動時間の大切さを啓発する「Outdoor Classroom Day」に行われたウォーキングイベント。
ブリュッセルでは地元の学生からEU政策担当者まで約70名が参加した。
「初の具体的な成果は、特定政策分野などについて欧州理事会の合意内容をまとめた『欧州理事会結論』(※7)に目の健康が盛り込まれたことです。そこで使われた文言は、私たちの声明と非常に近いものでした。理事会がこの問題を認識し理解してくれたことは大きな意味を持ち、私たちのメッセージを受け入れる意思を示してくれた素晴らしい成果です」とデファーヌは振り返ります。
一定の成果は得られたとはいえ、患者さんの治療アクセスにはまだ大きな課題が残されています。目の病気の深刻さに対する政策立案者や医療システムの認知度は低く、Santen EMEAのパブリックアフェアーズ部門はこれに対応しながら、EMEA地域の患者さんが必要な治療を受けられるよう努めます。デファーヌはこれまでの取り組みを次のように振り返ります。「取り組みを始める前と比べて、政策立案者のSantenに対する認知度は向上しました。しかし、より重要なのは、子どもの目の健康問題に対して政策立案者が関心を示し、共に活動する姿勢を示してくれたことです。私たちは目の健康に特化した製薬企業です。世界中の人々の目の健康に貢献するため、改善への取り組みを共有し、コミットメントを示し、行動を通じて政策立案者にSantenが有言実行していることを示しています」
Santenは今後も、目の健康問題に悩む人々が、より良いケアにアクセスできるよう、パブリックアフェアーズ活動を拡大し、政策立案者と連携した取り組みを進めます。
インタビューの最後、デファーヌは「視力はかけがえのないものです。生まれ持った目は一生のものです。読者の皆さまがご自身の目の健康を意識し、生活習慣を少し見直すことで生涯にわたり目を健やかに保てることを願っています」と締めくくりました。
ナディヤ・デファーヌ
シニアマネージャー パブリックアフェアーズ部門
Santen EMEA
国際関係学のバックグラウンドを持ち、国際機関での勤務を経て、2020年にSantenに入社。セル&ジーンセラピー部門に加わり、パブリックアフェアーズおよびコミュニケーション業務に携わる。2024年Santen EMEAに異動し、EMEA地域でのパブリックアフェアーズ機能を立ち上げ、リードしている。
エティエンヌ・ルジリエ
バイスプレジデント マーケットアクセス・プライシング・パブリックアフェアーズ部門
Santen EMEA
製薬業界で20年のキャリアを持ち、うち16年間はマーケットアクセス&プライシング領域に携わる。2021年にSantenに入社。細胞・遺伝子治療ペイシェントアクセス部門のグローバルヘッドを務めたのち、2024年にSanten EMEAに異動し、マーケットアクセス・プライシング・パブリックアフェアーズ部門のヘッドに就任。2025年からEMEAのマーケットアクセス・プライシング・パブリックアフェアーズのバイスプレジデントを務める。