林 剛史(はやし たけし)
製品開発本部 製品研究統括部 原薬開発グループリーダー
新しい薬が患者さんのもとに届くまでには、長い年月と多くの研究開発(R&D:Research and Development)プロセスが必要です。Santenでは点眼薬を中心とした薬の開発に取り組んでいますが、その一滴を支えているのが、薬の有効成分を探し出す「原薬(API)開発」と、その成分を実際に使える薬の形へと仕上げる「製剤開発」です。
今回は、原薬開発を担当する林剛史と、製剤開発を担当する遠藤洋子の二人に、患者さんに薬が届くまでの舞台裏と、それぞれの仕事の魅力について話を聞きました。
林:私は、薬の材料となる原薬の開発を担当しています。原薬となる化合物(薬のもとになる有効成分)を選定したり、設計したりするだけでなく、その品質を検証し、同じ品質の原薬を安定的に調達できるようにすることが重要な役割です。そのため、目標とする品質の設定や製造方法の開発に加え、スケジュール、安定供給、コストなどについて、社内外の関係者と調整を重ねています。
遠藤:その原薬を、実際に目に投与できる形にするのが製剤開発の仕事です。原薬は粉末や油状であることが多く、そのままでは点眼薬として使えません。そこで、水に溶かしたり、ほかの成分と組み合わせたりしながら、患者さんが使いやすい液体の点眼薬へと仕上げていきます。各成分の量やバランスを工夫し、原薬の効果を引き出しながら、安全性と使いやすさを両立した点眼薬を設計することが私たちの役割です。

林:まずはどの化合物が最適かを見極めるところから始まります。他社との共同研究を通じて新しい化合物をデザインし選定することもあれば、すでに全身薬として使われている原薬を、点眼薬に応用する場合もあります。
実は、Santenの原薬開発は、他社や社内のさまざまな部門との連携なしには進みません。Santenは自社で原薬工場を持たないため、製造を担う企業との協力が欠かせません。どうすれば高い品質の原薬を安定的に製造できるのかを議論し、将来の供給も見据えながら、製造方法や条件をすり合わせていきます。また、製造コストの調整も重要な業務の一つです。品質が高くてもコストとのバランスが取れなければ実用化は難しいため、生産部門と連携しながら検討を進めます。さらに、原薬の製造が開発スケジュールに影響する場合には、関係部門と協議しながら全体の日程を調整することもあります。
加えて、医薬品は国ごとに規制要件が異なるため、それらを満たせるかどうかにも注意を払う必要があります。承認申請に必要な技術資料の作成も、重要な業務の一つです。
このようにSantenの原薬開発では、薬に関する専門性だけでなく、コミュニケーション力や調整力も求められます。担当範囲が広いぶん難しさもありますが、それだけ多くの人と協力しながら薬づくりに深く関われることが、この仕事の大きな魅力です。
林:薬を必要としている患者さんに安定的に薬を届けられる原薬を選定することが重要です。そのために、QCD(品質・コスト・デリバリー)の3点を常に意識しています。品質が高いことはもちろん、コストに見合うこと、そして同じ品質の原薬を安定的に供給できることが重要です。ただし、時にはこの3つが相反する場面もあるのが悩ましいところですね。そんなときには、社内外との交渉を重ねながら、3つのバランスを見極めて最適な選択をしていきます。
また、円滑な調整を進めるために、協業する企業や他部門の考えを理解することを大切にしています。それぞれの「一番譲れないポイントは何か」を把握するため、日頃から積極的にコミュニケーションをとるようにしています。
遠藤:Santenの製剤開発は担当する工程が非常に幅広く、一つの製品に長くかかわっているという実感を持てる仕事です。具体的には非臨床試験・臨床試験用製剤の設計および製造、その後の承認申請のための資料作成に加え、工場で安定的に製造する方法を設計することも重要なミッションです。販売後も市場からのフィードバックをもとに、製品に不具合があった場合はその原因調査や製品改良を行ったり、販促に必要なデータを創出したりします。
医薬品候補として見出された原薬を点眼薬にするのが、私たち製剤開発の役割です。ただし、その実現は簡単ではありません。点眼薬は1回の投与量が数十マイクロリットルとごく少なく、その多くが目の外や鼻へ流れてしまうため、限られた一滴で十分な効果を発揮できるように設計する必要があります。
さらに、目は刺激に敏感な部位であるため、安全性や刺激性にも特に慎重な検討が欠かせません。眼科用医薬品では使用できる添加剤や濃度に制限があり、pHや浸透圧といった性質も厳密に管理する必要があります。加えて、製剤設計は原薬の移行性(原薬がどのくらい組織へ移行するか)や作用の現れ方にも影響するため、原薬の特性を踏まえながら、効果・安全性・品質のバランスを見極めていきます。こうした多くの条件の中で最適な組み合わせを探し、一滴の薬として形にしていくことが、製剤開発の面白さであり難しさです。
遠藤:考慮すべき要素をそれぞれ評価し、それらが最も良い形で重なる点を見つけていきます。単に効果があるだけでなく、患者さんが無理なく安心して使い続けられる薬に仕上げる必要があるので、不必要な添加剤が入っていないか、刺激性がないか、取り扱いが簡便か、点眼回数が適切かといった観点も検討します。
製剤の答えは一つではなく、設計者が10人いたら10通り以上の正解があると思っています。その中でいかに「Santenらしい」製剤を見出せるかが大切だと思います。多くの選択肢の中から最適解を見極める俯瞰的視点に加え、変化に柔軟に対応する力と先見性が求められる仕事です。
林:一人ひとりがかかわる業務の幅が広い点は特徴の一つだと思います。他社では分業されるような領域も、Santenでは一貫して担当することができます。だからこそ視野が広がり、より患者さんのためになるアイデアを生み出しやすいと感じています。また、有効な化合物を絞り込む段階から、各分野の研究者が集まりチームを編成し、そこでお互いに意見を交わしながらプロセスを進めていくのも「Santenらしいな」と感じます。
遠藤:Santenは眼科領域に特化しているからこそ、非臨床、臨床開発、薬事、マーケティングなど各分野の専門性が非常に高く、その知見やアイデアを結集して一つの薬を作り上げています。何より、患者さんにとって良い薬・価値を追求する姿勢こそが、Santenらしさだと感じています。
林:例えば、点眼薬では化合物が水に溶けるかどうかは製剤開発に大きく影響します。また、水に溶けてもすぐに分解しては製品にならないため、水中で安定して有効性を発揮できるかどうかを原薬選定の段階から意識しています。
製剤開発との連携で言うと、遠藤さんは経験とノウハウをもとに、どの成分を組み合わせるとどんな製剤になるのか予測できることが、一番すごいところです。医薬品開発の世界では、自分が手掛けた薬が1つでも世に出たらいいほうと言われているのですが、遠藤さんは、すでにいくつかの製品を患者さんに届けています。
遠藤:ありがとうございます。こちらこそ、林さんはいつもこちらが求める品質の原薬を見つけてきて、必要な時にきちんと供給してくださるので心強いです。原薬の安定した品質は製剤設計の前提条件であり、最終的な有効性・安全性・品質の確保に大きく関わります。良い原薬であれば製剤開発の際に原薬の特性をシンプルに考えることができますので、設計の見通しが立てやすくなります。
また、製剤開発では予期せぬトラブルが発生することも多く、その際にはまず原薬開発部門の方に相談に行きます。物理化学や有機・無機化学の専門的知識に基づいた見地から、課題の原因分析や解決の方向性について有益な示唆をいただける、とても頼りになる存在です。
林:社外の方から「サポートしていただけて本当に助かった」「一緒に働けてよかった」と言っていただけることは、大きなやりがいの一つです。コミュニケーションを通じて、より多くの人から信頼される原薬開発者になることが今後の目標です。信頼関係を築くことで円滑に質の高い仕事ができ、より良い薬を患者さんに届けることにつながると考えています。
遠藤:自分が製剤化した点眼薬が眼科で処方されているのを拝見して、患者さんが治療のために使用されていることを実感すると、やはりこの仕事をやっていてよかったなと思います。
今後は、患者さんや医療現場が本当に求めているものをより深く理解したうえでの研究開発が、いっそう重要になると感じています。治療法が限られている疾患や、治療の継続が難しいケースもある中で、原薬に有効性が期待できても、製剤化の段階で狙った部位に十分届けられず、実用化に至らないこともあります。そうした課題を乗り越え、新たな製剤の開発を通じて、患者さんの治療の選択肢を一つでも増やしていきたいです。
これからもSantenの研究開発は、それぞれの専門性を活かしながら連携し、患者さんに確かな価値を届けることで、眼科医療の可能性を広げていきます。
林 剛史(はやし たけし)
製品開発本部 製品研究統括部 原薬開発グループリーダー
2010年Santen入社。研究開発の複数部門を経験後、現在は、原薬開発グループに所属。グローバルに使用される医薬品の原薬開発や申請業務を推進している。
遠藤 洋子(えんどう ようこ)
製品開発本部 製品研究統括部 製剤開発グループリーダー
2000年Santen入社。入社以来、一貫して製剤開発を担当。主に新薬の開発プロジェクトに携わり、グローバルでの医療用医薬品の製剤開発を推進している。
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