67歳のスイス人理学療法士、ローランド・パイレックスさんは、スイスのパラクライミング代表チームの一員として活躍しています。自然を愛し、スポーツに対する情熱と忍耐力を持つローランドさんは、視力喪失という困難を乗り越え、人生を最大限に生きることができると証明し続けてきました。
ローランドさんが初めて視力に異常を感じ、診断を受けたのは、幼少期のことでした。その最初の診断が「近視」でした。視力の問題は、彼の人生観を形づくるのに影響を及ぼしました。しかし、それは、彼の行動を制限するどころか、「あらゆる挑戦を受けて立とう」という原動力になったのです。「自分が望む人生を送るのは、とても重要です」と話すローランドさんは、日常生活でもクライミングをするときでも、この哲学を道しるべとしてきました。視覚障がいへの適応から国際大会への挑戦まで、ローランドさんの生き方は、アスリートとしての成功にとどまらず、人間は己の限界を超えながら、妥協せずに夢を追い求めることができるという、勇気を与えてくれる物語でもあります。
15歳のとき、ローランドさんは初めての網膜剥離を経験しました。それは、家族にとっても衝撃的な出来事でした。スポーツとアウトドアを愛する10代の少年が、突然、「自分の視力が低下し、失明の可能性もある」という現実を、受け入れざるを得なくなったのです。
こうした困難にもかかわらず、ローランドさんは前向きな姿勢で、やりたい事に情熱を注ぎました。しかし40歳のとき、さらなる打撃に直面しました。重度の網膜剥離によって、片目の視力を失ってしまったのです。それでも「片目で生活することは問題ではなかったし、それが自分のやりたい事を止める理由にはなりませんでした」と話すローランドさんは、その状況に屈することなく、登山、自転車、スキー、クライミングを続けました。山とスポーツは、彼のアイデンティティの中核を成すものであり、片目の視力を喪失したために自分の人生やできる事には限界があると諦めることはありませんでした。
「以前は山の稜線がくっきり見えたのに、今ではかすかに見えるだけ」というまで視力のほとんどを失ったローランドさんですが、光を感じて、ものの像を捉えることはできます。今の彼にとっては、かすかな視覚さえも極めて貴重で、「自分にとっては、たとえ1%でも視力を維持することが重要なんです」と話します。わずかな光と影の認識が、周囲の風景とつながりを保ち、ローランドさんがいきいきと活動することを可能にしています。
視力が低下する中、ローランドさんは情熱を持つ事に、より一層力を入れるようになりました。パラクライミングの競技を始め、世界中の大会に参加するようになりました。今では世界のライバルたちと肩を並べ、常にトップクライマーの一人として活躍し、視覚障がいはクライミング能力を制限しないと証明しています。スイス、イタリア、アメリカなど、さまざまな国でのクライミングを通じ、ローランドさんは身体的な耐久力だけでなく、人生を切り拓き続ける精神的な強さを見せてくれているのです。
ローランドさんの人生は、視覚障がいがあっても、人生を最大限に楽しめることを伝えてくれます。それとともにローランドさんは、自分の状態を理解して、予防・治療の新たな手法を探求することの重要性も訴えています。彼自身、自らを振り返って、幼い頃に自分や家族がもっと明確な医療的助言を受けることができれば良かったと語っています。
「15歳で初めて網膜剥離を起こしたとき、両親はどうすればよいのか分かりませんでした。それまで、網膜剥離はもちろん目の健康や幼少期からの近視について、またその対処法についてほとんど知識がなかったのです。人間の目は非常に複雑です。病気の初期段階を理解し、それについて話し合い、病気の進行を遅らせるためにできる事の説明を受けるのも大切です」
ローランドさんは、さまざまな目の健康課題と向き合いながら、挑戦を続けてきました。そのうちの一つである近視について、「近視の予防は、まずは近視を知ることから始まる」と力説します。かつてと比べると今は、より多くの医学研究がなされ、近視に対する認知度も高まっており、家族も早期介入の選択肢を得られる環境にあります。近視の進行抑制はここ数十年で急速に進歩し、以前は得られなかった対処法が提供されています。家族にとっては、新しい医療技術に関する情報を常に把握しつつ、眼科専門医と緊密に連携して、子どものニーズに最適なアプローチを見極めることが重要です。
また、インターネット上に情報があふれる今日、ローランドさんは「インターネットには有益な情報も誤解を招くような情報もあふれています。近視という困難に直面する人々に対しては正確で明確なガイダンスを提供すること、信頼できる情報にアクセスすることが不可欠です」と話し、信頼できる情報源から情報を得ることや、医療専門家と連絡を取り合うことの重要性も強調しています。
ローランドさんは、「アクティブに過ごすことも大切」と述べ、自然の中に出かけるなどのシンプルな習慣が、周囲の世界とのつながりを保ち、自身の症状を管理する助けになっていると話します。
近くを見る作業時間の増加や屋外活動の減少は近視に影響するとされていますが(※1・2)、デジタル端末を長時間続けて使用しないよう心掛ける、屋外で過ごすことを優先するといった目にやさしい習慣を育むことは、目の健康にとって大切です(※2)。1日2時間の屋外活動は近視の発症を遅らせ、進行の抑制に寄与する可能性があるという研究もあります(※2)。
ハイキングやキャンプ、サイクリングに加え、朝の軽い散歩でさえ、近視リスク低減に重要な役割を果たす可能性があります。大切なのは、活動の種類ではなく、屋外で過ごす時間の長さです(※3)。ローランドさんは、自分が経験したような困難に直面する子どもが少なくなることを願っており、「たった一家族でも、私の体験談が早期に対策を取るきっかけになるのであれば、語る価値があります」と話します。
自らを「テクノロジーオタク」と認めるローランドさんは、自立した生活を送るため、さまざまなテクノロジーツールを活用しています。
スマートフォンの専用アプリやアクセシビリティ設定によりテキストの音声読み上げ機能を活用し、日常のコミュニケーションを円滑に行っています。またGPSを使ってガイド犬のサポートも受けながら、混雑した街の中や駅、初めての場所でも、自力で障害物を避けて歩き回ることができます。
こうした技術は、ローランドさんが自立した生活を維持するための大きな助けとなっていますが、「画像の文字を読むことや、自分が乗るバスがいつ到着するかを知ることは難しい」といった限界もあります。ローランドさんは、彼をはじめとする視覚障がいに悩む人々が、周囲の世界をより良く変えていけるよう、未来の技術が助けとなることを願っています。
ローランドさんは、視力喪失という深刻な状況でも、人間が持つ可能性は制限されないことを示してくれています。彼の若い頃になかったツール、研究、治療法にアクセスが可能な現在、親は、最新情報に注意を払い、信頼できる眼科医療専門家と連携して、医療・生活習慣の両面から対策を講じることで、子どもが健やかに成長する最善の機会を与えられます。
視力の問題は多くの困難をもたらしましたが、ローランドさんは情熱を持って夢を追い続け、限界を突破し続けてきました。彼は、視力の問題で困難に直面したとしても、挑戦にあふれ充実した人生の追求を妨げることはできないと身をもって示してくれているのです。