現代の製薬業界では、データサイエンスがイノベーションを生み出す原動力となっています。科学的知見と統計を組み合わせ、過去の臨床試験データを分析することにより、より効率的な研究の設計が可能となり、薬の開発期間の短縮につながるのです。

Santenでも、データサイエンスを活用し、医薬品の開発方法の変革に注力しています。その取り組みをリードするデータサイエンス部門バイスプレジデントのケイ・タツオカに、Santenでのデータ活用や自身のキャリアについて話を聞きました。

幼少期の好奇心を広げ、データサイエンスの道へ

タツオカは日本で生まれ、大学教授の父と研究者の母のもと、米国イリノイ州アーバナ市で育ちました。両親は、タツオカのコンピュータや数学への興味、知的好奇心を尊重し、支えてくれる存在だったと言います。「この両親のもと、大学の町で育ったことが、私の人生に大きな影響を与えています。常に好奇心を持つことや世の中を見る目は、この時に養われたのです」

 

高校生の時には、同級生がウェイターやレジのアルバイトに励む中、タツオカはプログラミングに没頭。ゲームやデータベースを作るプログラマーとして、すでに働いていました。その後、故郷の小さな町を離れてマサチューセッツ工科大学(MIT)に進学。異なる文化や多様な考え方に触れながら数学や統計を学んだ後、米国統計研究所(NISS)で博士研究員となりました。NISSでタツオカは、彼の研究アプローチに発想の転換をもたらすことになる、膨大な医薬品データセットと初めて出会います。これが、「手法に合うデータを探すのではなく、入手可能なデータに合う手法を開発する」という、彼独自の分析手法の原点となりました。

研究者から製薬業界へ

博士課程を修了した後、タツオカはグラクソ・スミスクライン(GSK)に入社しました。約200名の計算生物学者(※1)の中で唯一の統計学者として、バイオマーカー(※2)研究やシステム生物学(※3)、毒性ゲノミクス(※4)、安全性分析(※5)を担いました。そうした日々の中でタツオカは、「より影響力のある仕事をするには、医薬品開発の中核である『臨床統計学』に重点を移したほうがいいのではないか」と考えるようになります。

 

GSKとその後に勤めたブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)で、既存の知見と新たな臨床データを統合して、研究者が臨床試験中により早く、より正確な意思決定を行えるようにする新しいベイズ手法(※6)のアプローチを発展させて、臨床試験の初期・後期段階の改善に貢献しました。主要な免疫腫瘍学薬剤をはじめとするさまざまな薬剤の研究で最適な対象患者群を特定するため、バイオマーカーとエンリッチメント戦略(※7)を統合するという、重要な役割を果たしました。

 

こうした経験を重ねるうち、タツオカは、統計の専門家としてデータ分析だけでなく、戦略の決定や事業成長に寄与する臨床試験の設計にも貢献していくべきではないか、と改めて確信するようになりました。これが原動力となり、2021年にデータサイエンス・バイオ統計学グローバル責任者として、Santenに入社します。現在は統計専門家のトップとして、日本、中国、欧州、米国にまたがるグローバルチームを統括し、臨床開発、研究、その先の分野でデータ主導のイノベーションを推進しています。

  1.  計算生物学者:数学・統計・計算機科学を使って、生物学的現象を理論的・定量的に解析する研究者
  2.  バイオマーカー:疾患の診断、予後予測、または治療効果の予測・評価に用いられる、遺伝子変異や血液中の成分などの生物学的指標
  3.  システム生物学:遺伝子、タンパク質、代謝などの生体内要素を個別ではなく「システム全体」として捉え、薬が体に与える影響をデータで理解する研究分野
  4.  毒性ゲノミクス:遺伝子情報を使って薬の毒性や副作用などの影響を解析する研究
  5.  安全性分析:薬が患者さんにとって安全かどうか、副作用リスクや有害事象を統計的・科学的に評価する分析
  6.  ベイズ手法:事前知識と新しく得られたデータを統合して確率を更新する統計的推論手法
  7.  エンリッチメント戦略:臨床試験や研究において、治療への反応が高いと考えられる患者群を事前に選択・重点的に組み入れることで、薬剤の有効性や特性をより明確に評価するための戦略
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統計学とデータサイエンスがもたらす効率性とイノベーション

高度な統計手法が、いかに効率性をもたらすか―。Santenでのタツオカの取り組みから、それを見て取ることができます。

 

中国で行われた緑内障治療薬の臨床試験では、320名必要とされていた被験者が不足していました。それまでは、他の臨床試験のデータを別の臨床試験に活用することはありませんでしたが、タツオカのチームは、ベイズ統計手法を使って既存の臨床データを活用し、統計モデルを構築しました。これにより、科学的な正確性を損なうことなく、必要な被験者数を320名から約220名へ、約3分の1削減することに成功したのです。

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タツオカは、Santenの研究開発(R&D)部門の人工知能(AI)タスクフォース共同統括者も兼任しており、データサイエンスを基にAIを活用して、医薬品パイプラインのさまざまな領域にイノベーションと効率化ももたらしています。例えば、高度な生成AIの活用により、社内に蓄積された情報の検索を高度化しました。また、生産性の向上と医薬品承認の迅速化に向け、画像解析や遺伝子データ解析、臨床試験報告書の作成やプロトコル開発、規制当局への申請書類の作成に、AI技術を活用する方法も模索しています。

さらに、データサイエンスを通じて、CMC(化学・製造・品質管理)分野のプロジェクトや、創薬・商業化に向けた社内外データの戦略的活用も支援しています。

チームを率いる鍵は、成長の可能性を信じること

チームを率いるタツオカは、リーダーとして、チームメンバーに機会を与えること、メンターシップに力を入れています。「GSKでは巨大な計算生物情報部門の中での一統計担当でしたが、医薬品開発により影響力のある臨床試験をやりたいと思っていました。普通、こういう人材は雇われないでしょうが、私の場合は当時の上司が、経験の浅い私に賭けて採用してくれたのです。私も同じように、チームメンバーを採用する際、履歴書に書かれたスキルだけでなく、個人の成長可能性や潜在的な成長力といった大きな視点で見るよう心がけています」

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北米データサイエンスチームのメンバー

リーダーとしてチームを率いることは容易ではありませんが、世界のより多くの患者さんの眼の健康に貢献できるよう、チーム一丸となって日々業務に取り組んでいます。タツオカに、医療業界でキャリアをスタートしたばかりの人へのアドバイスを聞くと、「専門ではない分野について、学び続けること。周囲と協力的な関係を築くこと。そして、会社と患者さんに影響を与えるプロジェクトに、特に力を入れる事が重要です」と答えてくれました。

革新的な技術で変化をもたらす

タツオカは、臨床試験の設計とAIの利活用でSantenは業界のリーダー的な立場にあると考えており、その中で自身は、より早い医薬品の発見や効率性の向上、世界中の患者さんに実のある変化をもたらすために、革新的な技術を活用していくことに情熱を注いでいます。新たな統計手法の開拓であれ、チームの能力の強化であれ、タツオカは成長すること、協力して働くこと、そして患者さんに持続的な影響を与え続けることに、一貫して取り組んでいるのです。

 
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ケイ・タツオカ
データサイエンス部門バイスプレジデント

Santenのデータサイエンス部門バイスプレジデントとして、生物統計学、プログラミング、データ管理、データサイエンスを統括。以前はグラクソ・スミスクライン社とブリストル・マイヤーズ スクイブ社にて、生物統計並びに開発分野の上級職を歴任。マサチューセッツ工科大学(MIT)で数学の学士号を、ラトガース大学で統計学の博士号を取得。ハイキング、ランニング、読書、旅行と、多様な趣味を持つ。

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