アジア地域が抱える目に関する課題

Santenは、今後さらなる眼疾患の増加が予測されるアジア地域において、誰もがより良い眼科医療を受けることができる世界を実現できるよう、眼科医療の向上と眼科エコシステムの発展に取り組んでいます。回避可能な失明の予防および治療に先駆的に取り組んできた世界的な非政府組織Orbis International(Orbis)とのパートナーシップや、専門性の高い眼科医療の提供および質の高い教育や研究活動を行うSingapore National Eye Centre(SNEC)との戦略的パートナーシップをはじめ、緑内障やドライアイの医療向上をテーマとして、アジア各国の眼科学会、及び基幹病院との連携・パートナーシップに積極的に取り組んでいます。

今回は、Santenベトナムのメディカル・アフェアーズの担当者に、ベトナムの眼科医療の課題とOrbisとの協業について取材しましたので、担当者の想いとともにご紹介します。

ベトナムにおける質の高い眼科医療の実現とエコシステム構築を目指して

ベトナム眼科領域での課題と背景

アジアを含む途上国では眼科医や検査技師などの医療従事者不足が顕著であり、そのため近視やドライアイといった身近な眼疾患だけでなく、失明につながる緑内障や、先進国では治療法が確立している感染症に対しても、適切な治療が行き届いていないのが現状です。
なかでもベトナムでは、失明に苦しむ患者の数は、子どもで約2万3千人、おとなで約40万人と言われ、何らかの視覚障害を抱える子どもたちの数は300万人にも及びます。そしてこれらの症例のうち少なくとも80%は予防または治療することができるとされています*1

こうした背景にはベトナム固有の事情もあります。例えば農村部の医療従事者は言語の問題から、英語で提供される疾患知識や治療方針等に関する情報の収集や理解が困難な状況にあり、結果として、患者さんへ適切な診断や治療を行えていない現状があります。さらに若い医師たちは、都市部での就業希望者が多く、農村部の医療従事者の確保にも課題があります。

Santenは2013年にベトナム・ホーチミンに事務所を開設し、以来、ベトナムの公共医療を支えるハノイ、ホーチミンの基幹病院を中心に、多くの医療従事者とともに眼疾患の患者さんへの価値提供を行っており、Santenにとってベトナムはアジア地域において韓国に次いで、タイ、台湾と並ぶ重要な事業展開国となっています。ベトナム点眼薬市場におけるマーケットリーダーとして、現地の眼科医療の底上げに貢献することは責務でもあります。

そこで、ベトナムにおける眼科医療の質と量の両方の課題解決を目指し、OrbisとSantenは2020年のパートナーシップの締結以来、双方の強みを活かした協業を進めています。


*1
Orbis提供 (https://vnm.orbis.org/en/blindness-in-vietnam)

取り組み1:オンライントレーニングの受講者が7倍増加

Orbisは、世界的に高く評価されている遠隔医療e-ラーニングのプラットフォーム「Cybersight*2」を用いて、世界中の眼科医療従事者に多くの教育プログラムや診断サポートなどを行っています。
Santenは、一人でも多くの現地の医療従事者にCybersightを受講いただけるよう、これまで良好で強固な関係を構築してきた眼科領域のキー・オピニオン・リーダー(KOL)に対して働きかけ、翻訳等の支援も行っています。ベトナムの眼科医はベトナム語で8のオンラインコースと41の医学教育情報にアクセスできるようになり、多くの眼科医療従事者が世界水準の知識の習得に励んでいます(2023年6月現在)。現在の、そして近い将来の医療水準の向上につながるとして、KOLや医療従事者もこの進捗を歓迎しています。

Orbisの活動に協力する眼科医でありKOLでもあるトゥン医師は次のように話します。「私はベトナムの眼科医療全体の底上げとエコシステムの構築・発展のために、Orbisの活動にボランティアとして参加しています。オンラインプログラムの参加者からリアルタイムに質問を受けたり、実際の症例について意見交換をしたりすることは、受講者のみならず私自身の学びにもつながっています。Santenは製品だけでなく、専門的な知識やサービスの提供を通じて、ベトナムの眼科医療の発展に深く貢献しています。」

*2 眼科医療従事者を対象に、眼疾患に関する基礎編から上級編までのトレーニングや様々最新の医学情報など、豊富な学習コンテンツが常時更新され提供される無償のオンライン教育プラットフォーム。2023年6月時点で200を超える国と地域の約84,000人の眼科医がこのプラットフォームに登録している。

 

2023年5月に開催されたSantenとのプロジェクト審査会で、眼科医療従事者の育成の重要性について語るトゥン医師

取り組み2:実践的なトレーニングに150名以上の眼科医療従事者が参加

Orbisは医療技術の向上にも力を入れています。そのひとつがFlying Eye Hospitalの活動です。Flying Eye Hospitalは眼科治療のための最先端の医療機器や手術室、滅菌室や術前後のケアルーム等、眼科医療設備を搭載した飛行機です。Santenは、この活動で使用される手術シミュレーターやAI等のデジタルテクノロジーの開発と活用を支援しています。

2023年5月、コロナ禍を経てFlying Eye Hospitalが久しぶりに稼働し、ベトナムに着陸して約3週間にわたるトレーニング・プロジェクトが実施されました。シミュレーショントレーニングやワークショップの他、実際の患者さんを対象にした実践的な手術トレーニングも行われ、今回はのべ153名が参加しました。

 
Can Tho, Vietnam 2023 Flying Eye Hospital program

Orbisがベトナムで実施した「Flying Eye Hospital」プロジェクトで、技術向上のため眼科医が手術の実技訓練を受ける様子

トレーニング・プロジェクトに参加したビン医師は次のように話しています。「現場での研修に参加できる機会に恵まれたことを嬉しく思います。Flying Eye Hospitalは最新の技術設備と一流のスタッフを備えており、オンライン学習では習得することが難しい操作体験や臨場感に触れることができ、知見が広がりました。こうした機会を提供してもらえることに感謝します。」

「Santenのベトナムでの活動も10年を迎え、ベトナムの人々の目の健康の重要性の認識向上に手ごたえを感じています。」と話すのは、現地ベトナムのメディカル・アフェアーズ(MA)のマネージャー・トランです。
「私はMAとして、中立的な立場から医療関係者と交流し、医薬情報の提供、疾患の啓発等、医療従事者の活動をサポートしていますが、日常の業務において、医療従事者や研修医のレベルアップは重要なテーマだと考えています。最先端の医療技術や良質な医療知識が組み込まれた様々なプログラムを、ひとりでも多くのベトナム医療関係者に活用していただけるよう支援することが、われわれSantenの重要な役割でもあります。プログラム受講者とともに、患者さんの視力が回復する場面に立ち会った瞬間の感動は素晴らしいものです。私たちの取り組みが、目の病気の早期発見・早期治療、ひいては患者さんの価値貢献の最大化につながると信じ、これからも医療従事者やパートナーの方々とさらなる連携を図り、ベトナムの眼科医療の進歩に貢献してまいります。」

 

Flying Eye Hospitalの機体

ベトナムへのフライト前には大阪にも寄航し、Santenに対しFlying Eye Hospitalの機内ツアーを実施⁠。高度な視聴覚システムが装備された機内の手術室の様子はオンラインから3Dで視聴でき、リアルタイムでの質疑応答も可能(2023年4月22日、関西空港にて撮影)

世界中の患者さんの生活の質(QOL)向上に貢献

今後も眼科領域に特化したスペシャリティ・カンパニーとして、パートナーシップも活用しながら、目の健康に関するグローバルな課題の解決に取り組み、アジアのみならず事業展開をする様々な地域・国々で患者さんや社会への価値貢献の最大化に努めてまいります。

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