1890年の創業以来Santenは、社名の由来でもある「天機に参与する」という基本理念を大切にし、目を中心とした特定の専門分野において、患者さんとそのご家族や身近な人々に寄り添ってきました。今年7月に設立134年を迎えるまでの間、数多くの製品を生み出してきたことで、現在、世界中で毎年5,000万人以上の目の健康をサポートしています。

今回は、あらためて「目の健康」の重要性と、目のトラブルでお困りの方の現状をご紹介します。

世界は見えることを前提につくられている

社会インフラ、人とのコミュニケーション、労働や教育、スポーツ、芸術、など、私たちのあらゆる活動は「見ること」を土台に成り立っています。その重要性を意識することは、そう簡単ではありません。

試しに数分間、目を閉じてみてください。

視覚に頼らない世界では、日常の行動や生活が大きく変化します。まっすぐ歩く、食事をする、知人とすれ違うことも容易ではなくなるでしょう。また、青空を見たときの晴れ晴れとした気持ちや子どもの成長など、人生の幸せな瞬間にも「目」は重要な役割を果たしています。

治療・予防可能な視覚障がいをもつ人の数は約10億人

目の健康に関する課題は国・地域によって異なりますが、生涯を通じて目の不具合と無縁の人はほとんどいないとされています。昨今の国際社会の中でも、目の健康に対する関心が高まっています。

SDGs17の目標のうち、目の健康は、教育や貧困問題など8つの目標に深くかかわっており、その維持・向上は、SDGs達成にも大きく貢献します。しかし、現実には世界で約10億人が基礎的な眼科医療サービスさえ受けられず、予防可能な視覚障がいに苦しんでいます(※1)。しかも、その過半数は女性や子供たちです。

また、2060年までの予測によると、世界各地で65 歳以上の人口比率が増加傾向にあります(※2)。多くの眼科疾患は加齢にともない発症するため、今後、目の健康に悩む患者さんがさらに増えていくと予想されます。例えば、緑内障は、現在世界で約7,600万人が罹患しており、2030年までにはその数が9,500万人に達すると予測されています(※3)。

視覚障がいや失明を招く原因にもなる「近視」や「白内障」

目の健康トラブルは、加齢による老視をはじめ、緑内障や加齢黄斑変性などさまざまですが、最も多いのが近視です。近視は進行すると元に戻りにくく、その患者数は、2030年には世界人口の39.9%、2050年には49.8%に達する(※4)と予想されています。

日本では、文部科学省が行った「学校保健統計調査」によると、裸眼視力1.0未満の子供の割合は年々増加しており、2022年度の調査では、小学生の37.88%、中学生の61.23%、高校生の71.56%が、1.0未満の視力でした(※5)。

このような近視の増加は、ライフスタイルの変化が原因と考えられています。具体的には、屋外での活動の減少と、読書や勉強、スマートフォンやタブレットなどのデジタル機器を使った近距離での作業の増加が組み合わさったことなどが要因です。近視が進行すると、強度近視によって将来、失明に至る可能性のある重度の合併症リスクが高まります。

また、白内障は、日本においては近年手術における技術が進歩し、視力回復が早くなりました(※6)。しかし、IAPB(国際失明予防協会)によると、世界的には、失明者の9割は、屈折異常(近視・遠視・乱視・老視等)や白内障等、適切な予防や治療が可能な疾患が原因で、視力を喪失していると想定しています(※7)。

さらに、視覚障がいによる世界の年間生産性コストは 4,110 億米ドルと推定され、社会経済的な観点からも深刻な問題となっています。(※8)

視覚障がいや失明は、視力低下による不便さだけでなく、うつ病や社会からの孤立を引き起こし、人々のQOL(Quality of Life: 生活の質)に大きな影響を与えます。

Santenが目指す「Happiness with Vision」

130年以上の歴史を有するSantenは、眼科領域に特化した世界でもユニークな企業です。医療用を中心とした高品質な医薬品やサービスを提供することで、患者さんに貢献することを強みとして成長してきました。

注力している疾患の領域としては、主に加齢黄斑変性、アレルギー、ドライアイ、緑内障といった疾患に対する製品開発に取り組んでいます。さらに、さらに、未だ治療法が確立されていない疾患領域である、近視、老視、眼瞼下垂、網膜色素変性症といった新規領域のソリューション開発も進めることで、より多くの患者さんに貢献したいと考えています。

また、治療や予防のための薬やサービスを生むことに加え、すべての患者さんが適切な医療を受けられるように、眼科医の手術や治療スキル向上を支援する活動や、検査技師や医療従事者の教育などを通じて、医療へのアクセス向上にも取り組んでいます。

他方で、現在、治療法が存在しない先天性の疾患や中途失明に至る進行性の眼科疾患もあります。私たちは眼の領域に特化する企業として、視覚障がい者のインクルージョンには特に注力しています。視覚障がいの有無に関わらず、すべての人々が参画可能な社会を実現したい、交じり合い・いきいきと共生する社会を実現したいと考え、社内外のDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を推進しています。

この取り組みは、Santenの存在意義に根付いており、SDGsの「誰も取り残さない」という目標につながるものでもあると考えています。自身が視覚障がい者としてSantenの社員として働き、障がい者の立場からDE&Iを推進するCore Principle and CSV推進部のアブディン・モハメドは、次のように述べます。

視覚障がいの理解促進を通じ 社会のマインドセットの変化を目指す

 

「現在の医療では治療が出来ず、残念ながら失明してしまう人たちがたくさんいます。わたしもその中の一人で、幼少期より夜盲があり徐々に視力が低下し、12歳の時に読み書きができなくなりました。現在は強い光を感じる程度です。それでも社会生活を営む必要がありますし、わたしは障がいがあっても社会で活躍したいと思っています。

視覚障がいは情報障害です。

技術の進歩によって、視覚障がい者もPCやスマートフォンの操作が可能になり、大幅に情報障害が解消され、この変化が視覚障がい者の生活や就労機会拡大にもたらした影響は計り知れません。わたしは、失明や視覚障がいに対する人々のさらなる認知・理解の向上に向け、インクルージョンについての企画提案や実行に関する仕事に携わっています。視覚障がいへの理解促進やコミュニケーションの重要性を伝えるプログラム「ブラインドエクスペリエンス」の社内外での展開や、他の企業を巻き込みながら、視覚障がい者のスキルやQOL促進に関するプロジェクトを推進しています。また、視覚障がい者の職域開発と拡大に向けた社内環境の整備にも取り組んでいます。

多様性を強みとする組織風土づくりにこれらの取り組みを活用し、SantenのDE&Iの推進と社会全体のマインドセットの変化を目指します。」

Santenは、今後も、目の健康に関する社会的課題の解決にこれからも挑戦し続け、目の健康増進に寄与することで、世界中の患者さんに貢献していきます。

Santenが目指す「Happiness with Vision」への思いと事業内容に込めた私たちが考える提供価値をお伝えするコーポレートムービーもご覧ください。

  1. WHO “World report on vision”
    https://www.who.int/publications/i/item/9789241516570
  2. United Nations, World Population Prospects: 2015 Revision
  3. *1 World report on vision. Geneva: World Health Organization; 2019. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO
  4. Holden BA, Fricke TR, Wilson DA, Jong M, Naidoo KS, Sankaridurg P, et al. Global prevalence of myopia and high myopia and temporal trends from 2000 through 2050. Ophthalmology 2016;123(5):1036-42.
  5. 文部科学省: 報道発表 令和4年度学校保健統計(確定値)の公表について
    https://www.mext.go.jp/content/20231115-mxt_chousa01-000031879_1a.pdf
  6. 公益社団法人 日本眼科医会 白内障と手術 | 目についての健康情報 |
    https://www.gankaikai.or.jp/health/24/
  7. Vision Atlas - The International Agency for the Prevention of Blindness (iapb.org)
    https://www.iapb.org/learn/vision-atlas/
  8. The Lancet Global Health Commission on Global Eye Health: vision beyond 2020