Santenは1890年に日本で創業して以来、「天機に参与する」という基本理念のもと、長年にわたって人々の目の健康維持・増進を追求してきました。現在は、眼科領域に特化した医薬品の研究開発、製造、販売・マーケティング活動をグローバルに展開し、世界60以上の国・地域で約5,000万人の人々の目の健康をサポートしています。

2025-2029年度中期経営計画の発表に先立つ2025年2月、私たちは理念体系を更新しました。この取り組みをリードした執行役員でチーフ オブ スタッフ(CEO付)の赤穗文保に、取り組みの目的や意義について聞きました。

世界中の社員がビジョン実現にコミットできるよう、シンプルな価値観に

―なぜ理念体系の見直しを行ったのでしょうか。

見直しの背景には、2021年に策定した中期経営計画からの教訓があります。

当時の中期経営計画では私たちが長期的に目指したい姿を力強く描きましたが、その実現に向けた足元の見通しが甘く、挑戦的な取り組みが先行してしまいました。その結果、売上は堅調に推移しているものの利益面では課題が見られ、最終的には痛みを伴う構造改革を行うことになりました。

今後、変化し続ける世界情勢に対応しながら、患者さんと社会に貢献し続けるためには、Santenだから成し遂げられることは何なのかを深く考え、事業や組織について変えること・変えないことを見極める必要があると考えました。理念体系もその一つです。

従来の理念体系は構造が複雑で、とくに社員の価値観(Values)が現場まで十分に浸透していないことが課題でした。経営層と社内のキーメンバーとで議論を重ねた結果、基本理念の「天機に参与する」と、Santenが目指す理想の世界である「Happiness with Vision」は私たちの恒久的な目的・存在意義であるため変えず、これらを実現するにあたって私たちの行動や判断のベースとなる価値観を時代に合わせて変えていくという判断に至りました。

全社員が基本理念とビジョンを深く理解し、Santenならではの価値を提供できるようにするためには、全体の約半数を占める日本以外の地域の社員もスムーズに理解できるような価値観を作る必要があります。できるだけシンプルで、自分たちの日々の行動につなげやすい言葉で表現することを目指しました。

Santenの理念体系

基本理念への思いと「Santenらしさ」へのこだわり

―新しい理念体系の検討は、どのように行われたのでしょうか。

私が検討組織を設計し、理念更新プロジェクトをリードしました。推進体制としては、コーポレート部門のスタッフを中心に、事業部からも計15名のアンバサダーを選定し、ともに検討を行いました。

印象深かったのは、多様なメンバーが集まったにもかかわらず、Santenで実現したいことや、価値観に必要な要素についての意見は驚くほど一致していたことです。私たちには「天機に参与する」という基本理念があり、製品を通じて医師や患者さんに貢献するという明確なミッションがあります。Santenの社員には基本理念や事業内容への共感が根底にあり、それぞれの思いに大きなギャップはないのだと感じました。

その一方、価値観をどのような言葉で表現するかという点では白熱した議論になりました。世界中の社員が同じように理解できるようにするには、明確でシンプルな言葉を選ぶ必要があったためです。

検討チームのメンバーで、創業からこれまでの理念体系と、それぞれの時代においてその理念体系を定めた背景や理由などもすべて洗い出し、今の自分たちに必要な要素を見極めていきました。グローバルの経営陣からの意見も反映しながら新しい価値観を作成しました。

 

更新した価値観には、いかにSantenらしく、社員が自分ごととして理解できる言葉にするかという、検討メンバーのこだわりが詰まっています。たとえば製薬会社の価値観には「イノベーション」を掲げる企業が多いのですが、私たちはあえてその言葉を使いませんでした。

イノベーションという言葉は一般的に、まったく新しい技術でパラダイムシフトをもたらすようなイメージがありますが、Santenのビジネスモデルは必ずしもそのイメージに一致するものだけではありません。新しい技術を生みだすだけでなく、今ある製品を生かし、患者さんや医療従事者のニーズに寄り添いながら継続的な改良を重ねるライフサイクルマネジメント(LCM)もSantenが得意とする一つです。こういった、大小さまざまな技術革新を包含できる言葉として「絶え間ない進化」を選んだのです。

執行役員 Chief of Staff to CEO  赤穗 文保

私たちが大事にする考え方である価値観とともに、行動原則も定義しました。Santenが長年にわたり大事にしてきた仕事への向き合い方を言語化し「肝心な事は何かを深く考え、どうするか明確に決め、迅速に実行する」と定めました。これらを行動と判断の拠り所としながら、基本理念の実践とビジョンの実現を目指していきます。

行動原則・価値観をベースに、一貫した経営計画と人材戦略を展開

―新しい理念体系は、どのようにSantenの企業価値向上につながっていくのでしょうか。

理念体系を軸に一貫した事業戦略と人材戦略を展開することで、企業価値の向上をはかります。

今回の理念体系の更新プロジェクトで行ったのは、理念の再定義だけではありません。5月21日に発表した2025-2029年度中期経営計画は、新しい理念体系をもとに作成されました。社員一人ひとりが価値観と行動原則を自分ごととして捉え、日々の業務に反映できるようにするためには、人事制度への組み込みも重要です。2025年度から始まった人事評価制度では、社員の行動が新たな行動指針や価値観に沿っているかどうかも評価のポイントとなっています。

また、理念浸透活動として、社内ポータルサイトでの役員メッセージ発信や、各拠点における全員参加のワークショップ開催など、さまざまな施策も進めています。これらの活動を長期的に継続することで、理念体系を個人の日々の業務につなげ、最終的には意識しなくても判断や行動に反映される状態を目指します。

こうしたプロセスによって、理念体系は組織の隅々まで浸透し、Santenの企業価値の基盤となっていきます。同じ理念を共有した人材が育ち、すべての社員がSantenならではの強みを発揮できるようになることが、Santenにとって最もサステナブルな企業価値だと考えています。

世界中の医療従事者に信頼され、1人でも多くの患者さんに貢献できるように

―最後に、Santenの新しい理念体系について、赤穗さんご自身の思いやエピソードを聞かせていただけますか。

私が北米に赴任していた際の、忘れられないエピソードがあります。

カナダの眼科医を訪ね、Santenの緑内障手術デバイス「プリザーフロ マイクロシャント」を使った手術を見学したときのことです。重度の緑内障を緩和するために手術を受ける患者さんの約半数は、マイクロシャントがまだ承認されていないアメリカから、わざわざ国境を超えてカナダまで来ていました。そして医師がSantenのことを紹介すると、患者さんたちは私にも感謝の言葉を直接伝えてくれたのです。

このとき、1人でも多くの方に製品を届けるために、Santenは世界中の眼科医から信頼される存在になる必要があることを実感しました。

今後も私たちは、いつも患者さんを中心に考え、患者さんや医療従事者のアンメットニーズに応えられるよう、さらなる企業成長を目指します。新しい理念体系は、私たちの成長を下支えし、患者さんや患者さんを愛する人々が幸せになれる社会への道筋を作る存在となるはずです。今後のSantenの企業活動にご期待ください。