2025年5月19日(月)グランフロント大阪 うめきたSHIPホールにてビジネスカンファレンス「VISI-ONE Innovation Hub Conference 2025」が開催されました。このカンファレンスはさまざまなゲストを迎え、視覚課題(視覚障がいのある人々のアクセシビリティに関する社会課題)にかかわる最新のテクノロジーやグローバルトレンドをセッション形式で紹介するもので、Santenからも2名の社員が登壇しました。

現代社会にはどのような視覚課題が存在し、解決のためにどのようなイノベーションが生まれているのでしょうか。今回はVISI-ONE Innovation Hub Conference 2025の様子を、Santenの社員が登壇した3つのセッションを中心にレポートします。

1. テクノロジーの進歩によって、視覚障がい者は生きやすくなったのか?

セッション「テクノロジーの進歩による視覚課題当事者の変化を問う」では、テクノロジーの進歩によって、視覚障がい者を取り巻く環境がどう変化しているかを語り合いました。

登壇者は日本視覚障害者ICTネットワーク代表の中根雅文さん、視覚障がいのある学生に向けた事業を運営する合同会社WillShine代表の川本一輝さん、そしてモデレーターである参天製薬株式会社 基本理念・サステナビリティ本部 基本理念・CSV推進部 リーダーのモハメド・アブディン。視覚障がいのある当事者として視覚課題の解決に取り組んでいる3名が、それぞれの視点から意見を交わしました。

―テクノロジーの進歩がもたらした、思いがけぬ困難

 

スクリーンリーダー(読み上げ機能)の進歩やスマートフォンの普及などによって、視覚障がい者は外出時のナビゲーション、金融サービスや決済、写真撮影・管理、文字認識など多様な方面でテクノロジーの助けを借りることができるようになりました。自らできることが増えた一方で、周囲からのサポートを求めにくい雰囲気にもなっていると中根さんは指摘します。また川本さんはAR・VRといった視覚優位の技術が発展する中で、視覚障がい者が置いていかれる場面も生まれているといいます。

そして三者が口を揃えて訴えたのが、セキュリティ強化の取り組みが視覚障がい者に与える困難についてです。画像を認識したり、パスワードをなぞったりする形式による本人確認は視覚障がい者にとっては非常に困難で、自分の資産にすら自由にアクセスできないという状況が起こっています。

自身の体験をユーモアを交えて語る
中根さん(左)・川本さん(右)

―AIが視覚課題を乗り越える大きなカギに

 

モデレーターを務めたSantenのアブディン

一方でAIは、視覚障がい者が困難を克服するツールとして大きな可能性を秘めています。川本さんは買い物の際に画像認識を使って商品の値段を自由に確認できるようになり、会社登記の際にも様式に合わせた書類作成などにAIを大いに活用しました。

中根さんは今後、どれだけ自分たちのニーズを言語化し、AIを活用して課題解決できるかが重要だと語ります。アブディンはマジョリティのニーズに上手くフィットする形で、視覚障がい者にとってもメリットのあるサービスを成長させていくことが必要ではないかと主張しました。

2. 障がい者スポーツから共生社会を作る

障がい者スポーツなど社内外での障がいに関する啓発活動は、企業においてどのような可能性を秘めているのでしょうか?

セッション「障がい者スポーツとの関わりにおいて、企業の変化を問う」では、ブラインドサッカー協賛企業であるスカイライトコンサルティング株式会社 代表取締役の 羽物俊樹さん、参天製薬株式会社 基本理念・サステナビリティ本部 基本理念・CSV推進部 部長の長谷川成男が、モデレーターの林鉄朗さんとともにビジネス視点から考える視覚課題について語りました。

―スポーツ×イノベーションが世界のトレンド

羽物さんがブラインドサッカーの協賛を決めるきっかけとなったのが、IBF FoundationとSantenが開催した、視覚障がいに関する新規事業創出支援プログラムです。現在ヨーロッパを中心にスポーツがビジネスにイノベーションを与える動きが加速しており、このプログラムがまさにそのトレンドを体現していると感じたといいます。また長谷川は、視覚障がい者と晴眼者が力を合わせてプレイするブラインドサッカーを「共生社会の縮図」だと語り、Santenのビジョン「Happiness with Vision」を実現するためにも長い目線で支援し続けたいといいます。

―障がいを身近に知ることで、社員の意識が変化

 

ブラインドサッカーを見て社員たちが「見えない中でこんなに動けるのか!」という驚きを得ているという羽物さん。他にも視覚障がい者のリーダーシップキャンプなどビジネスに繋がるプログラムを開催する中で社員が関心を持ち、「視覚障がい者は保守的な考え方を持っている」という先入観が打ち破られる機会が生まれています。

長谷川はブラインドサッカーを支援する中で、社内での障がいに対する認知理解を高めることの大切さを感じ、全社対象のブラインド体験プログラム、視覚障がいのある子どもたちと社員がともに過ごすキッズキャンプなどを実施してきました。視覚障がい者の方に手助けが必要か声を掛けた際「この間もSantenの方に声をかけられました」と言われ、地道な取り組みの成果を感じたといいます。

障がい者スポーツの可能性を語る
Santenの長谷川(左)・羽物さん(右)

―目指すのは社会貢献とビジネスの両立

 

スカイライトコンサルティングとSantenがともに立ち上げにかかわっているのが、視覚課題に関して、さまざまな人が集まってプロジェクトを組成する機会を作り出すVISI-ONE Innovation Hubです。「社会貢献は金にならないという認識に風穴を開けたい」という思いを持つ羽物さん。視覚課題を再定義し、マーケットを見つめ直すことで世の中を大きく変えられるのではないかといいます。

長谷川も一企業では投資的効果の観点からできることに限界があるとし、VISI-ONE Innovation Hubの取り組みは理想の形だと語りました。

3. 各国に見る、視覚障がい者を取り巻く環境

セッション「視覚課題をグローバルに捉えなおす」では、視覚障がい者を取り巻く各国の社会構造や規制、教育などの違いを取り上げました。Santenのモハメド・アブディンがモデレーターを務め、ガーナの視覚障がい者団体ガーナブラインドユニオン 支部長(アクラ地区)の責任者であるジョセフ・セイェナ=ススさん、アルゼンチンで活躍するDE&Iのスペシャリスト、ナターレ・アントネルさんとともに、国を超えた視覚課題を語り合いました。

―視覚障がい者の自立を支えるさまざまな法制度

 

ジョセフさんが紹介したのは、ガーナの教育支援および自立支援です。ガーナでは盲学校に進学する場合、授業料と寮の家賃が無償であり、晴眼者と視覚障がい者が一緒に通える高校も存在します。また視覚障がい者の経済的自立を支援するために、小規模ビジネスに必要な備品や設備を提供する制度が整備されています。

一方、ナターレさんによると、アルゼンチンでは法律上は視覚障がい者が高等教育を受ける機会を妨げるものはありませんが、実際に高等教育を受ける視覚障がい者の割合は決して高くありません。

ガーナで実施されている、視覚障がい者への小規模ビジネス支援制度について説明するジョセフさん

―視覚障がい者の就労率は各国共通の課題

 

アルゼンチンの障がい者雇用の現状を語る
ナターレさん

視覚障がい者の就労率の低さは、ガーナ・アルゼンチンともに大きな課題です。ナターレさんは、アルゼンチンでは労働年齢にあたる障がい者のうち、雇用されているのはたったの25%だといいます。ガーナでは進学しない視覚障がい者のための共済基金、アルゼンチンでは失業状態の視覚障がい者への年金が用意されていますが、いずれも少額です。

就労率が低い背景には障がいへの差別意識や偏見もあり、ジョセフさんは友人が配車サービスを頼んだ際、視覚障がい者であることを伝えるとドライバーから配車をキャンセルされた例を取り上げました。またナターレさんも雇用主側が障がい者に対して「働けない」もしくは「パフォーマンスが低い」という偏見を持っていると語りました。

―テクノロジーが障がい者の未来をポジティブに変える

「これらの問題に対して、ビジネスやテクノロジーがどのように対処できるだろうか」というアブディンの問いかけに、ジョセフさんはリモートワークのような企業の新しい制度・変化の受け入れが問題解決に貢献しうると回答しました。またナターレさんは、新しいテクノロジーやリソースを学べる機会を視覚障がい者により広く情報提供することで、自立が可能になるといいます。アブディンは「課題は大きいが、技術の発展と社会的な意識の高まりが、視覚障害者の未来をポジティブに変えることができると信じている」と熱い思いを語りました。

今回のカンファレンスでは、視覚課題に対して、さまざまな観点から興味深い議論が交わされました。視覚課題の解決は眼科に特化したスペシャリティ・カンパニーであるSantenにとって非常に重要です。今後もSantenは視覚障がいの有無にかかわらず、誰もがいきいきと共生する社会の実現を目指し、積極的に取り組みを進めていきます。